平成18年(特わ)第4205号

公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為の防止に関する条例違反被告事件

被告人 植 草 一 秀

 

最 終 弁 論 メ モ

 

平成19年8月21日

 

 

最終弁論の概要は以下の通り(一部、被告人意見陳述書で補足)。

 

 

T.弁護側目撃証人の供述は被告人無罪の決定的証拠である。

 

   公訴事実の犯行時間帯に弁護側目撃証人は被告人が吊革につかまって誰とも密着せずに立っていた状況を目撃していた。

 

   弁護側目撃証人供述の信用性を詳細に検討した。

 

 

  @証言に至った経緯が極めて自然

 

(被告人意見陳述書には以下の説明がある。)

 

「証人は事件翌日にニュースで事件を知り、「えっ、うそだろう。車内暴力というイメージが強かった」と思いながら、「通りがかりの通行人をして」そのままにしてしまっていたところ、平成19年1月22日に私が東京拘置所から保釈される際に、寝具などの荷物を台車に乗せて押しながら歩いている私の姿がテレビニュースで放映されている場面を見て、「何かで協力してあげればよかったと思った」と証言しました。

 その後、過去に私が出版した著書を入手し、出版社に連絡先を問い合わせたが分からず、その後、たまたま簡易裁判所で出会った弁護士に事情を話したところ、隣の弁護士会館に一緒に行ってくれ、弁護士会館で私の担当弁護士を教えて欲しいと申し入れたとのことでした。

ところが、担当弁護士の連絡先がすぐには分からずに連絡先をさがしていたところ、たまたま私の会社のホームページの存在を知り、連絡を取ろうとしたとのことです。しかし、私の会社のホームページに記載されていた電話、FAX番号は平成19年4月13日ころまで利用可能な状況にはありませんでした。平成19年4月13日ころに私が会社のホームページに通信可能なFAX番号を掲示したところ、その直後である4月20日に証人からFAXで連絡が入りました。」

 

  A事件内容に関する予備知識もないし、予断や偏見もない。

 

(被告人意見陳述書には以下の説明がある。)

 

「私が直ちに弁護士に連絡を入れたところ、弁護士は私が目撃者と直接連絡を取らないように指示しました。その後、弁護士が目撃者に連絡を取った結果、目撃者が公判に証人として出廷してくれることになりました。弁護団は証人に事件の説明をまったくしておりません。また、証人はテレビのニュースで伝えられた程度にしか、事件についての知識を有していませんでした。私は証人とはこれまでまったく面識がなく、証人からFAXで連絡を受けたのち、直ちに弁護士に連絡し、その後の連絡は弁護士から行なってもらい、また、弁護士から証人と直接接触しないように指示され、証人とはあいさつもろくにさせてもらえない状況にありました。

したがって、証人が証言した内容は、紛れもなく証人が自分の目で見たことに他ならないと思います。証人として法廷に出廷することには大きな負担を伴うと思いますが、証人が純粋な正義感から多大な手数をかけて名乗りをあげてくれ、公判で証人として証言してくれたことに対して私は強い感謝の念を感じ、公判で証人が心情を吐露した際には強く胸打たれました。」

 

  B被告人に対する強い関心をもって注視していたから、証言内容が詳細かつ具体的で信用性が高い。

 

   なお、証人が電車に乗車した際、被告人がすでに電車に乗っていた点について、検察は被告人供述と矛盾すると主張するが、失当である。被告人は改札を通過した際に目の前に電車が止まっていたと供述したが、その電車に乗ったとは言っていない。改札から離れた場所から乗車したことを踏まえると、目撃した電車ではない電車に乗った可能性が高い。被告人が目撃した電車は先発した電車か、反対ホームに停車していた電車であった可能性が高い。

 

   (被告人意見陳述書には以下の説明がある。)

 

   「私は平成18年9月13日午後10時8分に品川駅を発車した京浜急行京急久里浜行き電車に乗り合わせ、今回の事件に巻き込まれました。取り調べにおいて、品川駅京急改札口を通過する際に目の前に電車が止まっている状況を記憶していることを述べました。この電車に乗ったのかどうかについては、改札通過後、電車に乗る瞬間までの記憶が途切れているために分かりませんが、東京地方検察庁での取り調べの際に、取り調べ担当の名取検事から、私が当日使用したパスネット記載の改札通過時刻からすると、私が改札を通過したときには私が乗った電車はまだ品川駅ホームには入線していなかったはずだと指摘されました。

私は証拠として採用されている平成18年10月3日付検面調書において、「あなたが改札口を通ったときには、下り方向のホームにはまだ電車が入ってきていなかったようだが、その記憶は間違いないのか。」との問いに対して、「私としては目の前のホームにいたような気がしますが、私が改札口を通ったときにまだ下り電車が到着していなかったとすれば、何か勘違いをしているかも知れません。」と述べました。

    第9回公判で証言した弁護側目撃証人は電車に乗る人の列の最後尾から電車に乗り込んだ際に、私がすでに電車の車内にいたと証言しました。つまり、私は事件の発生した電車が品川駅に到着する前に品川駅ホームに入り、当該電車到着後、第9回公判の弁護側目撃証人より先に電車に乗り込んだと考えられます。私が目撃した電車は品川駅を先発した電車か反対ホームに停車していた電車であった可能性が高いと思われます。第9回公判の弁護側目撃証人が電車に乗り込んだ際に、すでに私が電車の車内にいたことに矛盾はないと思います。」

 

  C弁護側目撃証人が被害者の声を聞いていないことには合理的な理由がある。  

 

   検察官は被害者が発した声を大声とか叫び声と勝手に述べているが、大声という証拠はなく、叫び声という表現は検察官の論告以外に存在しない。証拠にない事実を作り上げて論じようとする検察官の態度は厳に戒められるべき。

 

(被告人意見陳述書には以下の説明がある。)

 

「被害者が発した声はやや大きめな声でしたが、それほど大きなものではありませんでした。その後、泣いていたとのことですが、声をあげていたわけではありません。第9回公判で証言した弁護側目撃証人は、うとうとしていて女性が声をあげたことに気付かなかったと証言しましたが、電車の進行方向左側の座席に着席していた弁護側目撃証人が電車外部の騒音などの影響もあり、この証人に背を向けていた女性が発したそれほど大きくはなかった声に気付かなかったとしても、まったく不自然ではないと思います。」

 

  D被告人の姿がよく見えて、被害者の姿が見えなかったことには合理的な理由がある。

 

   電車内見取り図に証人が記述した人物配置図を示し、証人の視界を示した。

   検察官は、逮捕者が逮捕者供述に基づく場所に立つと、目撃者から被告人が見えないと主張したので、逮捕者供述に従い、逮捕者の位置に人を書き込むが、これでも、目撃者から被告人が見通せることを示した。

 

   車内の混み具合について、証人は「座席側エリアはつり革につかまっている人がまばらだった」と供述し、

   「ドア側エリアについては、多少人と人が触れ合うかもしれない状況であった」と供述した。

 

   なお、最終弁論での読み上げはなかったが、弁護側目撃証人は蒲田駅で逮捕者の連れの者のように降りた若い女性を目撃し、その女性がセーターにスカート姿であったことを法廷で供述した。証人はセーラー服やブレザーのような、一目で女子高生と分かる姿の女性を目撃していないが、セーター、スカートを着用した若い女性の後ろ姿を目撃したと供述した。被害者女性はセーターにスカート姿の服装だったことが最終弁論において写真で示されたが、弁護側目撃証人はこの女性の後ろ姿を目撃したのだと考えられる。

 

  E時間の経過に関する供述内容は信用性が高い。

 

   具体的な駅名や車窓の風景、駅の看板で場所を特定しており、どのあたりでどうであったかの供述の時間的特定の信用性が高い。

 

  F位置関係に関する供述内容の信用性が高い。

 

   弁護側目撃証人は進行方向左側のドアから2人目の場所に座っていたと証言しており、信用性が高い。検察官は証人が進行方向左側と右側のどちらに座ったかを思い出す状況をとらえて、信用性がないと述べるが、証人は一切の予備知識がないなかで、品川駅から電車に乗って記憶を喚起して自分の座った位置を特定したと供述しており、信用性は高い。

 

 

 ( 最終弁論に関するマスコミ報道の最大の問題は、弁護側目撃証人に関する弁護側主張をまったく報じていないこと。

   弁護側証人の証言報道では、一部マスコミが「痴漢被害を居眠りしていて目撃していなかった」と虚偽報道しておきながら、最終弁論でその誤報が明確になったにもかかわらず、このことにまったく触れていない。)

 

 


U.最終弁論の概要

 

1)総論

 

   被告人は被害者の右、ないし、右後ろに被害者に密着することなく立っていた。

  真犯人は被害者の真後ろに被害者に密着して立っていた。

  被告人は犯人ではない。

 

  被害者は痴漢犯人を注意するために耳にかけていたヘッドファンをはずして、「やめてください」などと言いながら右回りに後ろを振り返ったと供述。

 

  真犯人は被害者のヘッドフォンをはずす動作に反応して被害者から離れ、右後ろに移動した。

 

  被害者が後ろを振り返ったときには、真犯人はすでに人ごみにまぎれていた。被害者は自分が振り返る動作、抗議の言葉に反応して、いったん被害者の方に注目した後、右の方に顔をそむけるようにした被告人の動作を不自然と感じて被告人を犯人であると取り違えた。

 

  検察側目撃者は、被害者が犯人を取り違えるはずはないという思い込みがあり、被害者が犯人を取り違えたことに影響を受けて、被告人を犯人と取り違えてしまった。

 

  被害者が被告人を犯人と取り違えて抗議していたことから、電車内の他の乗客も被告人が犯人であると取り違え、逮捕者も被告人を犯人と取り違えてしまった。逮捕者は被害者が痴漢被害にあった場面をまったく目撃していない。

 

弁論の構成

 

@被害者供述の犯人識別供述の信用性が低いことを立証。

 

A検察側目撃証人の犯人識別供述の信用性が低いことを立証。

 

 B被告人供述は逮捕者供述、弁護側目撃証人供述に支えられている。

 

  Cこれらから被告人は犯人でないことを立証。

 

 

2)各論

 

(1)被害者の犯人識別供述の信用性

 

被害者の犯人識別供述は被告人を犯人と特定する根拠にならないか、あるいはその信用性に疑問がある。

   したがって、被害者の犯人識別供述は信用しがたい。

 

   詳細は省略。

   

   @被害者の後ろにいた犯人が後ろに後退したと被害者が供述したことについて

 

被害者が振り向き始めたときにはすでに後退していたのか、完全に振り向いてから後退したかについて、被害者は「はっきり覚えていない」と供述した。

 

被害者は犯人が後ろに下がったと感じており、後ろを振り返った際に自分から少し離れていた被告人が、いったん自分を注視し、その後右に向きを変えたことから犯人と取り違えてしまった。

 

人間の感覚として回転して真後ろの位置を特定することは難しい。客観的には被告人は被害者の右後ろにいたが、被害者は真後ろにいた人物から痴漢被害を受けていて、抗議のために体を回転させて振り返った際、被告人のいる方向を真後ろと錯覚してしまったと考えられる。

 

   A被告人が後退したとの供述について

 

    被害者がヘッドフォンを取って振り返る間に真犯人は移動し終えていた。 

    後ろにいた被告人を犯人と思いこんだ。

    真犯人は密着していた。

    密着していた人間が離れていた。

    被告人が後退したと思いこんだ。

 

    ただし、被告人の位置は被害者のすぐ近くだった。この点は逮捕者が証言している。

 

    被害者供述に従えば、犯人が存在する位置は被害者の後ろの方向でなければならず、被告人の位置とは大きく異なる。

 

   B被告人が被害者にごめんというようなことを言ったという供述について

 

    逮捕者の証言からはありえない。

 

 

(2)検察側目撃証人の犯人識別供述の信用性

 

   目撃者の犯人識別供述には重大な4つの疑問がある。

 

   @被告人がつけていた眼鏡を記憶していない。目撃者は犯人の目を注視していた。目撃者は犯人が「少しうつろな目をして、ボーっとしていたような感じです」と証言した。

 

   A犯人の姿勢が不自然に右に傾いていたと証言したが、被告人は4キロもあるバッグを右肩に下げていた。このような重いバッグをさげていれば、通常は体を左に傾ける。また、右に傾けていれば、バッグがずり落ちてしまう。目撃者は犯人の右肩が見えたと証言したが、バッグの肩ひもにも気付いていない。

 

   B目撃者は犯人の左手について、「指先も手の甲も、あと、袖口も見えた」、「手の甲と袖は一体として肩の上から見えた」と証言したが、傘を左手首にかけていたことに気付いていない。

   被告人が犯人だとすると、傘は左手首にかけるしかあり得ない。傘に気付いていないということは目撃者が見たのは別の人物ということになる。

 

   C被告人が事件当日と比べて、検察側目撃証人供述時には8、9キロやせて、やつれていたのにもかかわらず、「当時より顔つきがやせているんではないかとか、やつれているんではないかというような印象はもちませんでしたか」という裁判長の誘導的な質問に対して、「そういう印象はもちませんでした」と答えた。

 

   検察側目撃証人が目撃した犯人は被告人とは別の人物である。

 

   目撃者は被害者が振り向いてから犯人が後ろにさがったと供述したが、密着していた状態で被害者が振り返れば、犯人と被害者はぶつかってしまう。犯人が離れてから被害者が振り返ったと考えられる。

 

   目撃者は電車内で犯人や被告人が植草一秀であると気付いていなかった。

   ヤフーのニュースや友人からのメールでつかまった犯人が植草一秀であると知り、犯人が植草一秀であると確信するようになった。目撃者は被告人や犯人の顔を正確に観察、記憶していなかった。

 

   (被告人意見陳述書には以下の説明がある。)

 

   「弁護団は日本大学文理学部の厳島教授に、眼鏡をかけた私の印象に関する心理学実験を委嘱しました。実験では法科大学院の学生に私の写真9枚を1枚当たり8秒ずつ、合計72秒間見てもらいました。写真は被害者の後ろに私が密着していたとの目撃者証言に基づいて現場を再現して、目撃者から見える私の姿を撮影したものです。

大学院の学生に3日後に写真について質問した結果、20人中の19人が私が眼鏡をかけていたことをはっきりと記憶していました。目撃証人は、私が持っていた傘や右肩に下げていたバッグについての記憶がなく、特徴のある眼鏡を記憶しておらず、目撃証人の証言時に私が激しくやせてやつれたことにも気付きませんでした。目撃者は私でない別の真犯人を目撃していて、被害者が振り返ったあとに被害者が指し示した私を自分が目撃した犯人と誤認してしまったのだと考えられます。」

 

 

(3)逮捕者供述について

 

   逮捕者の供述する被告人の位置は被告人供述と基本的に一致している。

 

   一方、被害者、および検察側目撃証人が供述する、被害者の真後ろからうしろ、ないし、右後ろに1、2歩、あるいは2、3歩後退した犯人の位置は、被告人が立っていた場所と明らかに異なっている。

 

   これらから、被告人は犯人ではないことが明らかになっている。

 

 

(4)弁護側目撃証人供述の信用性

 

   T に既述

 

 

(5)被告人供述の信用性

 

   大量に飲酒後、酔いが回った。女性の声を聞き、痴漢騒ぎと感じたのち、覚醒したことは合理的である。

 

   タクシーを利用しなかったことは不自然でない。

 

   下り方面電車に乗ったことは、ひどく酔った被告人の当時の状況に鑑みれば、不合理ではない。

 

   電車内での対応、電車を降りての対応、自殺未遂の件、供述内容の変化(はじめはまちがってバッグか何かがぶつかった可能性も否定し切れないと思っていたが、9月15、16日に被疑事実を聞いて、それは絶対ないと確信した経緯)

などについて、被告人意見陳述書には以下の説明がある。

 

「私が下を向いて目をつぶっていたところ、しばらくして私は私の左とうしろを誰かにつかまれ、私が犯人に取り違えられたことに気付きました。しかし、電車のなかで騒ぎには絶対したくないと考えて、電車が蒲田に到着するまで静かにしていました。被告人質問では、なぜ大きな声で抗議しなかったのか、なぜ真犯人を探そうとしなかったのかと聞かれましたが、私はその時点では、とにかくこの場で騒ぎにはしたくないとの気持ちでいっぱいでした。また、力の強い見知らぬ男に押さえられて身の危険も感じていました。私は顔を人によく知られている身であり、また、過去に事件に巻き込まれたこともあることから、電車内で騒ぎになれば間違いなく大騒ぎになると考えて、そのような行動をとりました。

 

    蒲田駅で電車を降りたあと、私はとにかく女性と話をさせてくれと主張し続けました。私は酔って半眠りの状態にありましたので、電車が揺れた際にバッグか何かが女性にぶつかった可能性も否定し切れませんでした。そこで、とにかく女性から話を聞いて誤解を解かなければならない、そのことだけを考えていました。警察に引き渡されてしまえば、なす術なく犯人に仕立て上げられて、悲惨な報道被害、冤罪被害に直面することは間違いないと思い、とにかく警察が来る前に女性と話をして誤解を解かなければならないと考えました。

ところが、女性と話をすることは、私をつかまえた二人の男性と蒲田駅職員に力づくで阻止されてしまいました。そうなれば、悲惨な事態に突入してゆくことは間違いなく、家族を含めて惨事に巻き込まれるのを遮断するには自分が命を断つ以外にないととっさに判断して蒲田駅駅務室内において自殺を試みました。蒲田駅職員が私の自殺行為に気付き、力づくで阻止しましたので、自殺は未遂に終わりましたが、この影響で私の両目は完全に充血し、充血が治るのに約1ヵ月の時間を要しました。

警察に行けば一方的に犯罪者に仕立て上げられてしまい、悲惨な現実に直面するとの私の瞬間的な推理が正しかったことは、のちの現実によって証明されました。被告人質問で検察官は、「誤解を受けた可能性があったのなら、警察が来たときにそのように伝えればそれで済むのではないか」と質問しましたが、痴漢事件における警察での被疑者取り扱いの実態をまったく踏まえない現実離れした質問だったと言わざるを得ません。

 

私は事件発生時から今日まで、一点の嘘、偽りを述べることなく対応して参りました。事件当初、被疑事実をまったく知らされず、「痴漢をやった覚えはない」と述べました。9月15、16日に検察庁、裁判所で被疑事実を知らされ、はっきり「そのようなことはしていない」と述べて今日に至っています。」

 

 

(6)青木警官供述の信用性

 

   警官とのやり取りで「不快感を与えるようなことをした」とのやり取りをしていないことを被告人ははっきり覚えていると供述

   その内容を認め、署名、押印した調書は一切存在しない。

 

   警官は一方当事者である警察官であり、信用性は低いと評価すべき。

 

   青木警官はメモを持っていたにもかかわらず、メモを取っていなかったのは不自然、不合理。やりとりの正確性、信用性を否定するもの。

 

   検察官は「「電車の中で女性に不快感を与えるようなことをしました」という表現方法で自己の犯行を認めることは肯首しうる」と主張するが、「女性に不快感を与えるようなこと」としては、女性に持っていた荷物や体がぶつかる、女性の足を踏む、などさまざまな可能性があり、検察官の主張は飛躍した憶測に過ぎず、自己の犯行を認めたなどと評価できないことは明らか。

 

   (被告人意見陳述書には以下の説明がある。)

 

   「蒲田駅で警官と言葉を交わしたことは覚えていますが、「女性に不快感を与えるようなことをした」などの言葉を絶対に発していません。蒲田駅で私がそのような言葉を発したと証言した青木警官は、その後蒲田警察署内で取扱状況報告書を作成したと証言しましたが、同時間帯に蒲田警察署内で取り調べを受けていた私は、警官から「蒲田駅で女性に不快感を与えたと言ったのではないか」などの指摘をまったく受けておりません。このことは青木警官の証言が虚偽であることの明確な証左であると思います。」

 

 

(7)繊維鑑定について

 

   @弁護側は市川証人尋問、鑑定結果を弾劾するために、静岡大学澤渡千枝教授の鑑定書、同人の証人尋問、同人を鑑定人とした鑑定の請求をした。これらの証拠は市川尋問、鑑定結果を否定するに十分なものであった。

    ところが、裁判所はこれらの証拠調べ請求をことごとく却下した。

    したがって、市川尋問、および同人による鑑定結果に基づいて事実認定することは著しく公平、公正に反するばかりでなく、適正、正確な事実認定を誤ると言わざるを得ない。

 

   A被告人の付着物から採取された繊維は蒲田駅駅員の制服生地に類似していることを立証することは可能である。

 

    (被告人意見陳述書には以下の説明がある。)

 

    「蒲田警察署で粘着テープによる私の両手指10本分の付着物採取が行われました。検察官は科学捜査研究所に付着物の鑑定を委嘱し、証人として出廷した科学捜査研究所の市川研究員は、付着物として採取された獣毛繊維3本が被害者が着用していた紺色スカートの構成繊維に類似していると証言しました。これに対して、弁護団は私が蒲田駅駅務室内で2度にわたってもみ合った京浜急行蒲田駅職員が着用していた紺色制服と同一の制服生地を入手し、静岡大学の澤渡千枝教授にその生地の構成繊維と手の付着物から採取された獣毛繊維との同一性に関する鑑定を委嘱しました。その結果、駅員が着用していた制服の構成繊維が私の手の付着物から採取された獣毛繊維と「極めて類似している」との鑑定結果が提示されました。

弁護団はこの鑑定結果を裁判所に証拠として採用するように要請しましたが却下され、澤渡千枝教授の証人尋問を申請しましたが、これも却下されました。市川証人は付着物の獣毛繊維が被害者女性のスカートに由来するか判別できなかったと証言しており、私の手の付着物から採取された獣毛繊維は、私がもみ合った京急蒲田駅職員の制服生地に由来する可能性が非常に高いと考えます。」

 

   B市川鑑定結果には信用性がない。

 

    イ.繊維鑑定は被告人を犯人に識別する証拠としての価値が極めて薄弱   

 

    ロ.市川鑑定には信用性がない。

      手指に付着していたとされる状態が不自然、不合理

      繊維の採取方法が不合理。市川証人は「生地を構成している糸を少し切り取り、糸をほぐして採取。しかも矛盾しないものをピックアップした」と供述した。

      光学顕微鏡で精密な鑑定はできない。      

      色調に関する鑑定基準が不存在

      光学顕微鏡は色調の鑑定に適さない

 

    ハ.繊維の形状の類似性に関する市川供述の信用性はない

 

      (また被告人意見陳述書には以下の説明もある。)

      

      「被害者および検察側目撃証人は犯人が被害者の真後ろに被害者に密着して立っていたと証言しました。被害者はグレーのセーターを着用していたので、もし私が犯人であれば、私のスーツに被害者着用のグレーセーターの構成繊維が多数付着しているはずです。弁護団は裁判所に対して被害者着用のグレーセーター構成繊維が私の着用していたスーツに付着しているかどうかについて、裁判所による鑑定を求めましたが、これも却下されました。」

 

 

 

3)結論

 

   @被害者の犯人識別供述の信用性が低い。

 

   A検察側目撃証人の犯人識別供述の信用性が低い

 

   B逮捕者供述と被告人供述は、被害者が振り返った時に被告人が立っていた位置についてほぼ合致しており、相互に信用性を補完し合っている。

 

   C真犯人は被害者の後ろに密着して立っていて、一方、被告人は被害者の右後方近くに立っていたのであり、被告人は犯人ではない。

   

D弁護側目撃証人供述は信用性が高く、これによると公訴事実や被害者の供述する痴漢被害の時間に被告人が痴漢行為をしていない。

   

E弁護側目撃証人供述は被害者が振り返る少し前まで被告人が痴漢行為をしていないことを明らかにするものである。

逮捕者供述は被害者が振り返った時に被告人が立っていた位置から被告人が犯人でないことを明らかにするものである。

両者が相俟って被告人が痴漢犯人でないことが明らかになった。

   

Fしたがって被告人は無罪である。

 

以上